個々の筋肉は、指一本動かすのにも全身の筋肉と連携して働きます。時にその「つながり」は皆さんの思いも寄らないルートを通ります。ですから「え!左手の問題だと思っていたのに、足の使い方が問題だったの?!」ということがあり得るのです。
身体というのは意識出来るか否かに関わらず、頭のてっぺんから足の先まで、常に全身が関わって働いています。何の分野でも「動きの美しい人」というのは、ある身体の部分の小さな(ものに見える)動きを起こすのにも「全身が上手く使えている人」という事になるのです。

「アゴを引きなさい」この言葉に対するよく見られる反応は、まず首の筋肉を萎縮させることでしょう。上記のように全身の筋肉は連携しているのですが、特に首の筋肉の他の部分に与える影響は、とても大きいのです。この萎縮によってまず、頭と背骨の関節の関係性を悪くするのですが、実はあらゆる脊椎動物の動きはここから始まります。そしてまた多くの場合、ここでの萎縮が全身を上手に使うのを妨げる「問題」の始まりにもなるのです。

「萎縮」が「つながり」を悪くするのと同じように、間違った「リラックス」もまた「つながり」を悪くする要因になり得ます。必要なテンションが足りないことが要因で、ある部分に萎縮をもたらしてしまうことも多いのです。良いテンションは生きるために必要で、身体にも良いものです。それには正しい「種類」「場所」「量」「タイミング」……などを知ることが必要ですが。

ここでもまた言葉の問題があるように思えます。今あえて「萎縮」と「テンション」と書き分けました。「萎縮」=「生気のない状態」、「テンション」=「張力」と考えれば分かりやすいかもしれません。日本語の「緊張」と訳すと自動的に「精神的」でネガティブな意味に取られる事が多いようです。良いテンションは美しい吊橋にも、あらゆる弦楽器にもあなたの身体にも必要なものです。

よく見る筋肉の解剖図からだけではその「つながり」や流れは見えませんし、全てのつながりを言葉で分析、説明することは不可能です。それらは、それぞれの動きによってどんどん変化するのです。まるで風に揺れる木の枝や、寄せては返す波のリズムのように…
あらゆる芸術分野において「自然から学べ」とはよく言われますが、考えてみれば人の身体も本来「自然」ですよね。歩き始めたばかりの赤ちゃんの動きを想像して見てください。「自然」に逆らわず、ただ無心に、美しいバランスとリズムに乗って、気持ち良さそうに動きます。私たちは多くの場合、住んでいる社会や文化から影響を受けながら成長してゆくに従って、その「自然」を失ってしまっているのです。

では何がそれを失わせてしまっているのか、またそれを取り戻すにはどうしたら良いのか…
人間の「自然」や「全体性」を取り戻すためのメソッド、伝統的な知恵はこの世の中に沢山あります。身の回りの自然からはもちろん、現代においては数は少ないですが優れた演奏家、優れた職人やアスリートの動き、作品などからも学ぶことができます。そんな中の一つの方法、アレクサンダー・テクニークから僕は多くのことを学び続けています。

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