久しぶりに日本に滞在しています。今回の帰国は里帰りを兼ね、年越しコンサートやいくつかのサロンコンサート、そして幾人かの日本の演奏家達との身体と音楽のレッスンがその目的です。まだ数人にお会いしたばかりですが、皆さん普段から自分の楽器の演奏技術や音楽と真剣に向きあい、また毎日忙しく演奏をこなしている人達です。しかしそういった才能ある人でも、というよりそういった人達の中にこそ、自分の身体と向き合う時間も余裕も、またそれに関する情報も少なく悩みが深い人が多いのだと改めて感じました。今後も機会があればそういった人たちと共に学び、一緒に成長していけたら素晴らしいことだなと思っています。

前回のブログでも書きましたが、人は変わりたいと決心さえすれば、世の中のあらゆるものから学べますし、そこから成長への旅が始まります。当然この旅に終点はないのですが…でも黙っていたって人生は同じということはなく常に変化し続けますし、変化するということは楽しいことです。僕はあらゆるものから学びたいと思い、興味を引いたことははなんでも観て、聞いて、自分の中に貪欲に取り入れてきました。そんな色々な世の中の素晴らしい”教材”の中でもとりわけ興味深く、あらゆるものに応用が可能で、つまり人の成長にとって普遍的に大事なものへ導いてくれると”現在”は思っている(明日にはわかりませんが!)のがアレキサンダー・テクニークです。

アレキサンダ・テクニークは、より「自然」にヴァイオリンを演奏したいと試行錯誤を続けていた自分に、始めはそっと、そして少しづつはっきりと成長していくための指針を示してくれました。それは「マインド」と「身体」さらには「音楽」と「技術」は密接に繋がっていて、分けることは出来ない一つのものであるということ、「自然」であるというのはそういうことである、ということを知るための道でした。

このメソッドとの最初の出会いは、ヴィオリストで当時アレキサンダー・テクニーク(以下AT と表記)の教師の資格を取ったばかりだった友人が、その素晴らしさについて語ってくれ、ほんの少し実際に僕の身体にワークしてくれたことでした。ATのレッスンでは教師は言葉の他に、手を多く使い色々なことを生徒に伝えます。良く訓練された手からは多くの情報が直接身体へ伝えられます。わずか数分の出来事でしたがそれでも、無意識のうちに自分自身が己に対してこんなにも余計なことをして、いかに自らを不自由にしていたのかを知るには充分な経験でした。それと同時に自分はまだまだ変われるのだとはっきり実感でき、一人で笑ってしまうくらい嬉しかったのを覚えています。

ATは治療ではなく、あくまでも自分自身を上手に使うための「レッスン」です。良い教師との(なんの世界にも良い教師とそうでない教師はいるものです…それについてもいつか書きます)レッスンを受けることで、より自分を上手に使えるようになる。その結果、副産物として「健康になる」または「良い演奏ができるようになる」”かもしれない” …そういうものです。誰一人として同じ身体の人はいませんからそのパフォーマンスが同じになるということはあり得ません。誰でもハイフェッツにはなれませんが、その人の持つものを最大限に活かせるようになる。このことが人生において何よりも大事なことなのだと思います。

友人の3分間レッスンの後、良い教師を紹介してもらい毎週のように、多い時は週2回のレッスンを受けるようになりました。毎回ワクワクするような素晴らしい体験でした。しかし彼女は音楽家ではなかったので、この変化をどうヴァイオリンの演奏や音楽に結びつけて行くか、という段階で少し足踏みをしていた頃、今の自分の師であるペドロ・デ・アルカンターラ氏に出会うことになるのです。