アレキサンダー・テクニーク(以下 AT)はオーストラリア人で舞台俳優であったフレデリック・F・アレキサンダー氏が100年以上前に、舞台で突然声がでなくなってしまうという自らの症状を克服するために開発したテクニークです。このテクニークのもつ普遍性を考えると、彼によって「発見された」と言ってもいいかもしれませんが。後にイギリスに渡りさらにテクニークを発展させ沢山の生徒を指導し、またATを教える教師を育てるための学校を作りました。教えを受けた生徒の中には俳優をはじめ、ダンサー、音楽家、さらには学者、作家、医師などあらゆる分野の人達がいました。そして、それぞれがATの理念やテクニークを自分の専門分野の探求に生かして行くことになるのです。

ATを学ぶ際はじめに覚えておかなければならない基本理念はそう多くはありません。どんな人間でも自分がしていると思っていること、と実際に自分のしていることの間にはギャップがある可能性が高いということを知ること。物事のプロセスに着目せず、結果を性急に求めすぎる事が間違った自分の使い方(に限らず世の中のあらゆる事に言えると僕は思いますが・・・)の全ての始まりであること。それを改善し学習し直すには、今自分が「正しい」と思ってしているこ一旦やめなければならないこと。そして次の動きを始める前に、マインドを使って新たに方向付けをしなければならないこと・・・

たとえ専門分野が違っていても、真理を知っている人からは多くのことを学べるものです。むしろ枝葉にあたる情報(専門知識)に惑わされず大事なことを学べるチャンスは、より大きいかもしれません。アルカンターラ氏はATの教師であり、チェリストであり、音楽家であり、芸術家であり、常に「自然」から学び、変化・成長を続けている素晴らしい人間です。

ATの教師にも色々な考え方の人がいて、そのアプローチの方法は千差万別です。ある教師は身体の骨格や筋肉の構造を詳しく意識させることを最重要と位置づけ、またあるものはイメージの力を最重要とする。つまりアレキサンダー氏という一人の天才が発見した基本理念は普遍のものなのですが、何を最も大事なことと思うか、またはそこへ至るためのアプローチがそれぞれ全く違うのです。バッハという天才が書いた曲をどんなに学術的に「正しく」解釈したといっても、人の身体を通して演奏する限り身体の数だけ固有の「バッハ」が表現され、一つとして同じものが存在し得ないのと同じことです。

アルカンターラ氏からATのレッスンをとおして僕が学んでいることは、ATの基本理念についてであり、音楽についてであり、自己の使い方についてであり、それらをヴァイオリンの演奏やレッスン、さらには自分の生き方に生かすことです。そして何より重要なことは、それらの全ては一つの総体であり分けることはできないということ。言い方を変えるなら、例えば「良い」音楽のリズムやフレーズなしに良い身体の使い方は存在し得ない、ということなのです。

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