「日本の梅雨」

およそ20年ぶりに日本の梅雨を体験してきました。
分かってはいたけれど、やはりすごい湿気ですね・・・
これだけの湿度の変化があるといつもなら楽器の調子が変わることで、
音がクローズしてしまい倍音が激変するのですが、今回はちょっと違いました。

湿気を吸ったことで少しだけ華やかさが薄れ、”音量”そのものが落ちたものの、
楽器全体に行き渡るバランスの良い振動は変わることなく、
相変わらずその状況にあった”気持ちの良い響き”を保ってくれたのです。
それはひとえに、ニューヨーク在住の楽器職人M氏の調整のおかげなのです。

彼の施す調整のテクニックはあまりにハイレベルなことで、
素人の僕に全てを理解することは勿論できませんが、
僕の志す「身体と音楽との調和」へのアプローチとの共通点があるように感じます。
それは、楽器(身体)全体の振動(エネルギー)が滞りなく流れるように、
まずはそれを阻害する要因を取り除いてあげること。

M氏のアプローチはどんな楽器に対しても、どんな時にも変わりません。
目指すところは常に楽器(身体)の全体性、バランスを取り戻すことであり、
楽器の自然な振動を増やすことであり、結果”倍音”を増やすことに尽きます。
つまり楽器が呼吸が出来るように、歌うことが出来るようにすることで、
さらにはそれが演奏者の歌、音楽を引き出す手助けをすることにつながるのです。
ただ大きな”音量”をめざしてグイグイとあらゆるテンションを上げて行こうとする、
現代の一部の風潮とは全く根本から目指すものが違うのです。
”音量”とはなにか?というテーマも含めて考えていかなければならないことです。

それぞれの楽器(身体)は強いところ弱いところを併せ持った個性を持っています。
同じ楽器は二つとして存在しませんし、また一時も同じ状態ではありません。
大事なことはどんな形をしているか、どんなに長い指を持っているか、
どんなに恵まれた環境で演奏することができるかなどではなく、
それぞれの与えられた環境の中で、その個性なりにバランスが取れていて、
常に楽器(身体)全体として良い振動を起こすことができるかどうか、
なのだと思います。