歴史的にも、そしてお値段的にも(!)最高級と言われるような名器を弾かせていただく機会が、本当に幸運なことにゴクたまにですが有ります。そのうち数本の本当に良かったものは、よく鳴ってくれるとか、バーンと大きな音が出る・・・というよりも、楽器の”全身”が程よく振動していて、さらに、楽器が語り歌っているのか、演奏者自身が楽器にそうさせているのか、それともさせられているのか、一瞬錯覚を起こさせるような”何か”を持っているように感じました。

そんな楽器は沢山弾かせていただいた”名器”と呼ばれる楽器達のうちのほんの僅かでした。素人である僕に細かいことは分かりませんが、弾かせていただいた楽器達はきっとどれも、後世の楽器職人たちが模範とするような、基本的な”作り”としては申し分のない出来のものばかりなのでしょう。それでも、全体がバランス良く振動しない、語ってくれない、歌ってくれない、もしくはそれをさせてくれない楽器というのはあるのです。

僕にはそれらの楽器が、まるで ”ここの部分が弱いから補強しましょう”といって部分的に余計な筋肉をつけられたり、余計な薬を飲まされたり、余計な手術を施されたことにより、身体を壊してしまった人のように感じました。”その楽器なりに” 良くとれていた全身のバランスを崩し、自由を奪われ、うまく振動できない、動けないような状態なのだと思います。それでも、もともと持っている基礎体力は充分にあるので、要求された強い”圧力”に対応しようと必死にがんばっているようでした。でも、決して自分の声で語り、歌っているわけではないように思いました。