素晴らしいヴァイオリン奏法の伝統を受け継いでいる日本人のヴァイオリニストに出会いました。朝枝信彦さんです。19年間ドイツの「マンハイム国立歌劇場管弦楽団」のコンサートマスターを務め、現在は「シュターケンブルグ・クラシックス」の芸術監督、「松江クラシックス音楽祭」芸術監督、また洗足学園音楽大学客員教授を務めていらっしゃいます。また「朝枝信彦 室内管弦楽団」の演奏会が11月11日:神戸栄光教会、11月12日:東京品川教会で予定されています。

倍音のこと、言葉と音楽との関係、楽器の構え、親指とシフトの話……3時間以上話していましたが、お互い話は全く尽きず!どれも深く共感できるものばかりでした。また朝枝さんが直接教えを受けたナタン・ミルシュタイン氏や、アマデウス・カルテットのノーバート・ブレイニン氏らの数々の教えは大変興味深かった。いつか詳しく聞き取り、後世の人たちに文字としても伝えるべきものだと思いました。
朝枝さんとお会いしていて、かつてエリック・フリードマン氏が「ハイフェッツから教わったものを一言で言い表すなら、それは”ヴァイオリン演奏に対する徹底的に正直なアプローチ”である」と言っていたのを思い出しました。ヴァイオリンという楽器は人間と同じように、それぞれ個性があり非常に付き合い方が難しい。しかし、フリードマン氏が言うように”正直なアプローチ”を続けていれば、必ず無限の音色でそれに答えてくれるようになり、私たちが素晴らしい音楽へと繋がることを助けてくれる。それこそ至福の時を与えてくれるものです。

それにしても、そのような生き方を選んでしまった、又は選ばざるを得なかった真の芸術家というものは、特別に祝福されたとても幸福な人達であると同時に、”孤独な生きもの”でもあるということを感じました。このような素晴らしい芸術家に出会えて、ヴァイオリンをやってきて本当に良かったと改めて思えた幸福な1日でした。