一週間ニューヨークを留守にしていました。
旅の目的はメキシコ・シティにある音楽院で公開レッスンとリサイタルを行うこと。そして現在、最も偉大なキューバ人作曲家であるアルフレッド・ディエス先生に会い、いま制作中のCDに録音予定である氏の作品について指導を受けることでした。
ディエス先生は95歳になられましたが、全く疲れを見せることなく長時間熱心に指導してくださいました。全身にはエネルギーが滞りなく流れていて、その目や発する声、言葉、動きの一つ一つには静かで強い力がありました。そこには彼の作品に書かれた音と同じように無駄なものが一切なく、まるで彼自身の存在が「音楽」または「自然」そのもののように思えました。作品自体の具体的なディテールについてはもちろんですが、もっと大事なことを沢山伝えていただいたようにお思います。
何よりも「良く聞く」ことが大事であること。リズム、音と音のつながり、方向性・・・
彼の弟であるピアニストのヘルマン・ディエス先生は、かつてクラウディオ・アラウのアシスタントを長く勤め現在ニューヨークにお住まいで、時々レッスンをしていただいています。両氏を始め、以前ブログで紹介した「良い」演奏の伝統を受け継いでいたかつての師達も、源をたどれば皆同じことを伝えようとしてくれているように感じました。
今回の得難い経験から学んだ一番大事なことはおそらく、音楽家は常に、常に、常に自らに問いたださなければならないということ・・・自分は本当に自分の音、音楽を聞けているのだろうか、本当の意味で「自然」に演奏できているのだろうか、と。