日本の音楽雑誌「サラサーテ」最新号(55号)で、僕の師匠の一人であるデール・シュタッケンブルック氏が紹介されました。デール先生は、かつて存在したより自然なヴァイオリン奏法、音楽、フレーズの表現方法、そして倍音を含めた自然で色彩豊かな音の世界への扉を僕に開いてくれました。また常に自分自身が変化していくことへの勇気、その素晴らしさや喜びを僕に教えてくれた、真の芸術家です。
初めてC.W.Post (最近LIU Postに名称変更) Chamber Music Festivalでデール先生のマスター・クラスに参加した時、彼の演奏する音、音楽や楽器に対するアプローチ、身体の使い方等、全てがこれまで直接見て学んで来た事とは大きく異なり、まるで未知の世界を見る思いでした。それがなんであるか、はじめ理解は出来きませんでした。それでもなぜか、この人は何か本物を知っている、楽器演奏や音楽にたいして、また自身を含めた「人間」に対して正直な音楽家だ、という不思議な確信だけはありました。彼の発する音は、いわゆる“おおきい”(耳元でうるさい!)音ではなく、それでいて遠くからでも常に通って来て、又同時に空間を包んでいるようでもあり、そしてとても色彩豊かなものでした。また余計なものが動作や音楽そのものになく、核心だけを的確に射抜いている武道の達人のようにも見えました。 (つづく)